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パワハラ防止法とは何か 概要や成立背景・違反時の罰則まで詳しく解説!

飯塚匡春

2021.08.16

労務管理

パワハラ防止法とは何か 概要や成立背景・違反時の罰則まで詳しく解説!

パワハラ防止法の施行日|大企業2020年6月1日・中小企業2022年4月1日から

大企業2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から施行されます。

 

もちろん、施行前だからといってパワハラをしてもよいわけではありません。パワハラをした人は民法の不法行為責任が問われるほか、刑事罰に処せられる可能性もあります。

 

パワーハラスメント(以下パワハラ)は、労働者の就業意欲の低下や精神的な障害、離職率の上昇などを引き起こす行為です。パワハラの行為者だけでなく、パワハラを放置した企業も社会的なイメージを失墜し、ひいては業績悪化につながる可能性もあります。

パワハラ防止法が成立した背景のひとつとして、パワハラや関連する行為に対する相談件数が増加したことが挙げられます。

 

2017年4月に公表された「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」では、従業員の悩みや不満を相談する窓口において相談の多いテーマは、パワーハラスメントが32.4%ともっとも多いことがわかっています。

パワハラ防止法で規制されるパワハラの定義

パワハラ防止法で規制されるパワハラの定義

パワハラ指針ではパワハラの定義として3要件を示すとともに、典型的なパワハラと呼べる6つの類型を紹介しています。

 

3つの要件

職場におけるパワハラとは、以下の3つの要件をすべて満たすものと定義されています。

 

  1. 優先的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

「優先的な関係を背景とした言動」とは

「優先的な関係を背景とした言動」とは

言動を受ける者が行為者に対して抵抗・拒絶できない蓋然性が高い関係を背景におこなわれるものを指します。したがって上司から部下への言動だけとは限らず、同僚や部下による言動でもパワハラになり得ます。

 

たとえば次のようなケースでは職場内での優先的な関係が背景にあるといえるでしょう。

 

  1. 部下が業務上必要な知識や経験を有しており、部下の協力がなければ業務を円滑に進められない場合における部下から上司への言動
  2. 営業成績のよい社員から悪い社員への言動
  3. 経験年数が長いリーダー格の社員から新入社員への言動

 

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは

業務上明らかに必要のない行為や目的を大きく逸脱した行為、業務遂行の手段として不適切な行為をいいます。

 

たとえば、重要な会議に遅刻をした部下に対して上司が一度叱責するような行為は教育として意味合いが強く、通常はパワハラには該当しません。他方で、「遅刻するような人間だからお前はだめなんだ」などと、人格を否定するような言動をともない、それが日常的に繰り返されればパワハラに該当し得るでしょう。

 

教育・指導の名目でも社会通念上許容される限度を超えていればパワハラとなる可能性があるということです。

 

「労働者の就業環境が害されるもの」とは

労働者が能力を発揮するのに重大な妨げとなるような看過できない程度の支障を指します。たとえば就業意欲が低下する、業務に専念できないなどの影響が生じている場合です。

パワハラ防止法で事業主に義務づけられる措置

典型的なパワハラの類型は以下の6つです。

 

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個への侵害

 

6つの類型は限定列挙ではありませんので、これに該当しない場合でもパワハラだと認められるケースがある点には注意が必要です。

 

パワハラにあたるか否かは平均的な労働者の感じ方を基準としつつ、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係などさまざまな角度から総合的に判断されるべきものとされています。

 

パワハラの具体例

6つの類型をもとに、何をするとパワハラに該当するのか具体例をチェックしてみましょう。

 

  • 身体的な攻撃……殴る蹴る、物で頭を叩く、物を投げつけるなど
  • 精神的な攻撃……人格を否定する暴言を吐く、他の従業員の前で罵倒する、長時間にわたって執拗に非難するなど
  • 人間関係からの切り離し……別室に隔離する、集団で無視する、他の従業員との接触や協力を禁止するなど
  • 過大な要求……新卒者に対して教育のないまま過大なノルマを課す、私的な雑用を強要する、終業間際に大量の業務を押し付けるなど
  • 過小な要求……役職名に見合わない程度の低い業務をさせる、嫌がらせで仕事を与えないなど
  • 個への侵害……個人用の携帯電話をのぞき見る、センシティブな個人情報を他の労働者へ暴露する、家族や恋人のことを根掘り葉掘り聞くなど

パワハラ防止法で事業主に義務づけられる措置

パワハラ指針では事業主が講ずべき措置を次のように定めています。

 

企業にも職場環境配慮義務があるため、パワハラを含む各種ハラスメントを防止するための環境を整え、ハラスメント事案が発生した際には速やかに対処する必要があります。

 

また法改正がおこなわれた事実によってパワハラに対する社会の目がいっそう厳しくなっています。パワハラの行為者およびそれを放置する企業のリスクは高まっていると認識するべきでしょう。

 

社内方針の明確化と周知・啓発

事業主はパワハラを防止するために自社でどのような方針をとるのかを明確にし、管理監督者を含める労働者に周知・啓発しなくてはなりません。

周知・啓発をするには次のような方法があります。

 

  • 社内報、社内ホームページなどに「パワハラを行ってはならない」と明記し、発生原因や背景、トラブル事例なども併せて紹介する
  • 社内方針やパワハラの発生原因・背景を理解させるための研修や講習、説明会などをおこなう

 

加えて、パワハラの加害者に対して厳しく対処する方針や、懲戒処分などの対処内容を就業規則や服務規定に定め、周知・啓発しなくてはなりません。

 

トップが明確に意思表示をし、企業としての方針を知らせることで、労働者は自らの問題として「パワハラはいけないことなのだ」と認識します。周知・啓発においては、パワハラが発生する原因や背景について労働者の理解を深め、原因があれば解消していくことでパワハラを防止する効果が高まるとされています。

 

相談に適切に対応するための体制づくり

労働者から相談があった際に適切に対処するために必要な体制の整備として、相談窓口を設けて事前に労働者へ周知することが必要です。

 

たとえば相談に対応する担当者を決める、相談への対応を弁護士などへ外部委託するなどの方法が挙げられます。企業規模が小さく窓口や担当を決める余裕がない中小企業などでは、とくに外部委託は有効な方法でしょう。

 

また相談窓口の担当者が適切に対応できるよう、担当者へ対する研修の実施や人事部との連携をあらかじめ整えておくことなども求められます。

 

パワハラが発生した場合の迅速・適切な対応

事業主はパワハラについて労働者から相談があった際には、次の措置を講じる必要があります。

 

  • 事実関係を迅速かつ正確に把握する
  • 事実関係が確認できた場合にはパワハラを受けた被害者に対する配慮措置をおこなう(例:休暇を与える、必要な補償をするなど)
  • 事実関係が確認できた場合には加害者に対する必要な措置をおこなう(例:注意、配置転換、懲戒処分など)
  • 再発防止に向けて、改めて事業主の方針を周知・啓発するなどの措置をおこなう

 

まとめ              

パワハラ防止法はパワハラのないよりよい職場環境をつくるための法律です。法の趣旨や指針が示す内容を理解して実行するとともに、職場ではお互いが思いやりの心をもってコミュニケーションをとることも重要です。

 

指導する側は相手の成長を促すよう努めること、指導される側は適正な指導かどうかをしっかり見極める冷静さが必要となるでしょう。

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